IWC(アイダブリュシー)は、アメリカ生まれの時計職人「フロレンタイン・アリオスト・ジョーンズ」によって、1868年にスイス・シャフハウゼンに設立された時計メーカー。
アメリカ式機械自動化とスイス式伝統的技術の融合により、高品質時計の量産体制を築き、差別化を図りました。
1930年代に本格的に腕時計の生産を始めると、数々の名作を世に残します。
1936年「パイロットウォッチ」
1939年「ポルトギーゼ」
1955年「インジュニア」
1967年「アクアタイマー」
1970年「ダヴィンチ」
1984年「ポートフィノ」
1955年に誕生した「インジュニア」は、「パイロットウォッチ」や「ポルトギーゼ」と比較するとやや影が薄く、IWCの定番からは外れます。
当初は耐磁性能という機能性を重視したコレクションでしたが、近年はデザイン性を重視したモデルやクロノグラフ搭載モデルなども登場し、ラインナップの多様化が見られます。
今回はこのIWC「インジュニア」から、現在生産終了となったアンティークなモデルをご紹介します。
中には高騰している時計も存在します。
インジュニアとは
「インジュニア」とは、技術者(エンジニア)を意味するドイツ語。耐磁性能を重視したシリーズになります。1955年に、プロフェッショナル仕様のパイロットウォッチ「マーク11(48年誕生)」を、パイロット以外の放射線などの影響を受けやすい特殊な技術者(医者や放射線技師など)を対象として改良して販売したことが始まりになります。
「インジュニア」の特徴は、シンプルで男性的なデザインと軟鉄性インナーケースを使用した高い耐磁性能。発売当初から80,000A/m(1,000ガウス)という通常の機械式時計の20倍もの耐磁力性を誇り、多くの技術者たちに支持されました。初期のころは機能重視のシンプルデザインが主流でしたが、時代と共に近代的でスタイリッシュなデザインとなり、防水性能の強化されたモデルや、スリムでシースルーバックを採用したモデルなども登場しました。2013年の大刷新以降は、新素材や複雑機構を搭載したモデルも登場し、ラインナップは多様化しています。
1 インジュニア666(第1世代)
「インジュニア666」は初代インジュニア。1955年~75年頃まで生産されたモデルになります。主な特徴はシンプルでオーソドックスなデザインに、80,000A/m(1,000ガウス)という当時としては非常に高い耐磁性能。放射線を扱う技術者などに支持されロングセラーとなりました。ムーブメントは巻き上げ効率が高いペラトンシステムを採用した「キャリバー8531」。着用しているだけで自動的にゼンマイを巻き上げる「自動巻き」タイプになります。耐久性も高く評判のよい時計です。ケースは36mm。市場価格は50万円台~100万円台と高めを推移しています。
2 インジュニアSL1832(第2世代)
「インジュニアSL1832」は第2世代の「インジュニア」。1976年~83年頃にかけて生産されたモデルになります。「インジュニアSL1832」の主な特徴は、40mmの大きめのケースと、「ジェラルド・ジェンタ氏」によるデザインの刷新。「ジェラルド・ジェンタ氏」は、パティック・フィリップのノーチラスやオーデマ・ピゲのロイヤルオークを手掛けた時計界の巨匠。シンプルな文字盤にベゼルに打たれたビス、というこのデザインが「インジュニア」の顔となり、後のモデルへと承継されていくことになります。しかし、大きすぎるケースやクォーツ・ショックの影響により販売不振となり、1,000本も作られずに生産終了。希少性が高く、現在の市場価格は150万円以上となっています。ムーブメントは「キャリバー8541(自動巻き)」で、耐磁性能は80,000A/m。
3 インジュニア3508(第3世代)
「インジュニア3508」は、第3世代の「インジュニア」。1989年~92年頃にかけて生産されたモデルになります。「インジュニア3508」の特徴は、「ジェラルド・ジェンタ氏」のデザインの踏襲と、500,000A/mにも及ぶ超高耐磁性能。軟鉄性インナーケースではなく、ヒゲゼンマイにジルコニウム合金を使用することでムーブメント自体に耐磁性能を持たせました。しかし耐久性への懸念もあり、僅か3年程(3,000本弱)で生産終了。再び軟鉄性インナーケース・モデルへと戻ることになります。ケースは小型の34mmで、ムーブメントは自動巻き「キャリバー2892-A2」。市場価格は40万円台から、となっています。
4 インジュニア「IW322701」(第4世代)
「IW322701」は、第4世代のインジュニア。2001年以降一旦姿を消した後、2005年~09年にかけて生産されたモデルになります。「IW322701」の特徴は、42.5mmの大型ケースと、軟鉄性インナーケースによる80,000A/mの耐磁性能、そして自社ムーブメント「キャリバー80110」の搭載。「ジェラルド・ジェンタ氏」のデザインを踏襲しながらも、針とインデックスが太くなり、6,12時にアラビア数字を採用。そして、前作までと比較してケースサイズが格段に大きくなりました。市場価格は30万円台からとなっています。
その後2007年に、「インジュニア」の代名詞とも言える耐磁性能を捨てたシースルーバック・モデルが誕生し、路線転換が起こりました。更にはクロノグラフやコラボモデル、スポーティモデル、などが次々と登場し、IWCのスポーツウォッチ・ラインとして独自の発展をしていくことになります。
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